藤田邦昭と創業


  弊社は、都市再開発法の施行と同年の昭和44年11月に、再開発事業を主としたまちづくりのコーディネーター事務所として創設いたしました。創業者である故藤田邦昭は、昭和31年より、日本住宅公団(現都市再生機構)、続いてRIA建築綜合研究所(現アール・アイ・エー)で、既成市街地のための都市計画、市街地改造、防災建築街区造成などの「街づくり」に携わってきました。

 藤田は、その経験の中で、既成市街地における「街づくりの実現」には、下記の4つの条件が必要であると認識し、それらを包含し得る都市再開発の調査、計画、事業推進のための機能を備えた「コーディネーター事務所」を創業するに至りました。

 


 -二人の再開発名手が示した図式- 


 都市再開発事業とは、計画があってそれを実現させる仕事ですね。その仕事構造をうまく表現した図式があります。

 『計画合理性』とは、計画設計に魅力と整合性がありかつ社会的な位置づけが明確であること。『経済的妥当性』とは、無理のない資産評価・資金計画のこと。『合意形成』とは、事業全体の形成に関わり権利者や地域の合意を得ること。『マネジメント能力』とは、再開発前後の組織、法制度、管理面を主とした事業運営能力のことを言っています。

 再開発コーディネーターの仕事は、合意形成技術を中軸としつつ、専門性のある4つの要件を満たし相互に関連づけながら、事業主体をサポートしてこの図式の全体を推進させることです。

 都市再開発事業とコーディネーターの仕事を簡明に示したこの図式は、藤田邦昭氏と柴田正昭氏二人の再開発名手による共同作品です。都市再開発法施行直後の1970年代、お二人が各地の講習会、研修会で繰り返し発表されたものです。

 

 

 

 1993年に大阪市立大学に赴任して1年余りの1995年1月に阪神・淡路大震災に遭遇しました。この地震は、強烈かつ不条理な被害をもたらし、数多くの生命、財産、都市機能を奪いました。被災地の複雑な様相の中から、復興まちづくりやマンション再建事業が展開され、いずれも住民の合意形成や街づくり協議会運営への専門家の関与が鍵でした。

 痛感したのは、都市再開発法前後から関西で先行していた数々の都市再開発事業への取り組みが行政側と民間側に、上の図式にある4要件の専門的なノウハウと人材を蓄積しており、この蓄積が震災からの復興に広く大きく貢献したことです。

 さて、人口減少時代、大都市圏への再集中と地方の衰退が言われる現在、二人の先達はこの図式を使って何を語るのでしょうか。時代の要求にあわせて4つの要件にもっと柔軟な知恵を出せと言うかもしれません。

 

(再開発コーディネーター2011No.149「再開発にひとこと」より抜粋)

 

元大阪市立大学工学部教授

前大東文化大学環境創造学部教授

土 井 幸 平 氏